株式から得られる配当金には、通常約20%の税金がかかります。
しかし、日本株から受け取る配当金には、この20%の税金を軽減することができる仕組みがあります。これを「配当控除」と言います。
「配当控除」を使えば税金をかなり抑えることができるのですが、「配当控除」の仕組みやメリットを正しく理解されている方は少ないかもしれません。
また、高校中退投資家のように配当金生活を目指している方にとっては、「配当控除」は非常にお得な制度です。
本記事では、「配当控除」の基本的な仕組みを説明するとともに、配当金生活での活用について解説していきます。
配当控除はどんな仕組み?
「配当控除」の概要
まずは、「配当控除」がどのようなものなのか、その仕組みを確認していきます。
一般的に、所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の計20.315%の税金を配当金を受け取る際に支払う必要があります。
しかし、「配当控除」を活用することで、 所得税は10%、住民税は2.8%分の税金を、本来支払うはずの税金から差し引くことができます。
なお、なぜこのような制度があるかその理由です。要は二重課税を是正するための制度です。
法人税を徴収した後の利益の一部を株主に分配したものが配当金なので、法人税と所得税の二重課税になってしまう
なお、課税総所得金額が1,000万円を超える部分には違った税率が適用されるのですが、多くの方は1,000万円もの所得はないでしょう。以下では、1,000万円以下の所得を想定して説明します。
「配当控除」の対象になる商品は?
ただし、全ての配当金に対して「配当控除」を適用できるわけではありません。
「配当控除」の対象にならない代表的な商品を下記に示します。
- NISA口座
- 外国法人からの配当
- J-REITの分配金
特に注目したいのが、②外国法人からの配当です。米国株や米国ETFから受け取る配当金がこれに該当します。
最近の米国株ブームにもあり、米国株や米国ETFへ投資されている方も結構いるはずです。そういった方は、「外国税額配当控除」という別の仕組みがあり、一部の所得税を取り戻すことができます。
ただし、これは日本とアメリカの両方で課税されることによる二重課税を防ぐためのもので、日本の20.315%相当分の税金が軽減されるわけではありません。
したがって、米国株は日本株と比較すると、税金上圧倒的に不利です。
なお、「外国税額控除」の詳細は下記記事でも紹介していますので、興味のある方はご覧いただければ幸いです。
また、③J-REIT(不動産投資信託)の分配金も、「配当控除」の対象にならないことに注意が必要です。J-REITは配当利回りが高く、配当金生活やセミリタイアを目指している方が保有されている場合があります。
その他の一般的な日本株は「配当控除」を適用することができます。日本の高配当株へ投資している方にとっては、この制度は大きなメリットになるでしょう。
具体的な事例の紹介
ここでは、具体的な「配当控除」の事例についてご紹介したいと思います。
月10万円の配当金を日本株から受け取っており、アルバイトなどで月10万円の課税所得があると仮定します。
課税所得は下記2つの合計240万円
- アルバイト:120万円
- 配当金(日本株):120万円
「配当控除」を適用した場合とそうでない場合では、どの程度支払う税金に違いがあるでしょうか。
「配当控除」を利用しない場合
「配当控除」を活用しない場合は、120万円の課税所得にのみ所得税を適用します。配当金は20.315%の源泉徴収で完了するからです。
所得税は下表に基づいて税率が決定されますので、120万円の課税所得の場合は税率5%です。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
この場合、下記に示す通り合計で「245,040円」の所得税を納めることになります。アルバイトからの収入は所得税率が5%であるため、支払い税金は6万円程度です。一方で、配当金は所得税率が15%と高いため、20万円近い所得税を支払う必要があります。
①アルバイトにかかる所得税
- 所得税:120万円 x 5%=60,000円
- 復興特別所得税:60,000円 x 2.1%=1,260円
②配当金にかかる所得税
- 120万円 x 15.315%=183,780円
③所得税の合計金額
- 60,000円+1,260円+183,780円=245,040円
「配当控除」を利用する場合
次に「配当控除」を適用する場合を考えます。この場合は総合課税での申告が必要になりますので、アルバイトと配当金の合計240万円で所得税率を決定します。195万円以上330万円未満は税率10%です。
①アルバイト+配当金にかかる所得税
- 所得税:240万円 x 10%ー97,500円=142,500円
- 復興特別所得税:142,500円 x 2.1%=299円 (円未満は切り捨て)
②配当控除
- 120万円 x 10%=120,000円
③所得税の合計金額
- 142,500円+299円ー120,000円 = 22,799円
「配当控除」を利用することで、所得税はたった2万円程度になりました。「配当控除」を利用しない場合との差は、実に20万円以上です。
このケースは極端ではありますが、配当控除がお得な制度であることは間違いないので、是非活用したいところです。
「配当控除」の適用のライン
総合課税を適用する場合は、所得に応じて所得税率が上がっていきます。
例えば、900万円以上の所得税率は33%ですから、配当控除の10%を差し引いても、源泉徴収の15%よりも高くなってしまいます。
課税所得が900万円以上1,800万円以下の場合
- 総合課税:33%ー10%=23%
- 源泉徴収:15%
したがって、高所得者にとっては「配当控除」を利用せずに「源泉徴収」のままの方が税金的にお得になります。
しかし、セミリタイア生活を送る方は、このような高所得者に該当される方はほとんどいないでしょうから、「配当控除」を利用した方が基本的には有利と考えればよいでしょう。
住民税は申告不要制度を活用
次に住民税についても考えてみます。住民税の方は、「配当控除」を利用しない方がお得です。
住民税は均等割と所得割の2つで課税されます。均等割は所得に関係なく誰でも一定額支払うものですから、住民税の決定には所得割が重要になります。この「所得割」は、所得税とは異なり税率が10%で一定です。
道府県民税 | 市町村税 | 合計 | |
---|---|---|---|
均等割 | 1,500円 | 3,500円 | 5,000円 |
所得割 | 4% | 6% | 10% |
注:地域によっては条例で異なる金額が定められている場合があります。
一方で、「配当控除」を利用せずに、源泉徴収のみで完結させる場合は5%の税率になります。
「配当控除」で差し引くことができる税率はたった2.8%ですから、「配当控除」を利用したとしても、源泉徴収の5%の税率を超えてしまいます。
- 配当控除を適用した場合:10% − 2.8%=7.2%
- 配当控除を適用しない場合:5%
したがって、所得税は総合課税で「配当控除」を適用、住民税は「配当控除」を適用せずに源泉徴収で完結、が一番お得な選択になります。
住民税で「申告不要制度」を活用することで、所得税は総合課税、住民税は源泉徴収を選択することができます。上記の一番お得な選択をすることができますので、「配当控除」で住民税が高くなる心配はありません。
国民健康保険はどうなる?
所得税や住民税以外にも、国民健康保険も所得に応じて支払う金額が変わります。
国民健康保険料は「住民税の課税の取り扱い」に準じて決定されることになっています。したがって、先ほどご説明したように住民税は「申告不要制度」を選択することで、「配当金の所得はない」ものとして扱ってもらうことができます。
すなわち、「配当控除」を活用することで、住民税と国民健康保険料の金額は変えずに所得税だけを抑えることができるのです。
このことから、配当金生活がいかに税制上有利であるかが分かります。配当金生活を送る人は、「配当控除」で税金を最小限に抑えることが可能なのです。
まとめ
本記事でご説明した通り、配当金生活において「配当控除」は税金を抑える強力な武器になります。日本株からの配当金がある方は、是非活用を検討したいところです。
私は米国株や米国ETFを主体に投資をしていますが、税制上有利な日本株の方が、少ない投資金額で配当金生活を実現することができます。問題は優良な日本株をどのように選定するかです。
米国株である程度の配当金を確保できたら、高配当日本株にも少しずつ手を出していきたいと思います。
以上、ご参考になれば幸いです。