SPYD、VYM、HDVという米国高配当ETFの名前を聞いたことがある方も多いでしょう。
この3銘柄の中で最も高い配当利回りを誇るのがSPYD(SPDRポートフォリオS&P500高配当株式ETF)です。
とにかく配当金をたくさん受け取りたい方にとっては魅力的な銘柄の1つになるはずです。
一方で、個人投資家の多くは老後資金の確保などを目的に長期的に資産形成をしています。SPYDを長期保有して配当をもらい続けることは賢い選択なのでしょうか?
そこで本記事ではSPYDを長期保有することについて解説していきます。
SPYDを長期保有することはよいのか?
結論としてSPYDを長期保有することはおすすめしません。
なぜなら、10年、20年と長期的に資産形成する個人投資家であれば、もっと高いリターンの銘柄があるからです。
SPYDを保有するとしてもあくまでポートフォリオのサブ的な位置付けになるでしょう。
以下ではその理由を解説していきます。
SPYDの基本情報
まずはSPYD(SPDRポートフォリオS&P500高配当株式ETF)の基本情報を確認していきます。
SPYDは世界最大級の資産運用会社であるステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズが運用する銘柄です。
S&P500指数は米国の優良500銘柄で構成されており、世界最強の指数と言われています。SPYDはS&P500指数の中から配当利回りの高い上位80銘柄へ投資します。
そんなSPYDの特徴は以下の通りです。
- 配当利回りが4〜5%程度と高い
- 80銘柄へ均等配分
- セクターは敏感株が多い
- 経費率が安い
過去の傾向から配当利回りは4%以上が期待できます。
配当利回り3%くらいから高配当株と言われることが多いので、SPYDの配当利回りが高いことが分かります。
また、80銘柄への投資配分は基本的に均等であるため、構成銘柄による投資割合に大きな差はありません。
そして、不動産や金融などの景気敏感株が多いことも特徴です。
また、経費率は0.07%/年と格安で、長期投資にも適した水準であると言えます。
SPYDを長期保有するメリット/デメリット
ここではそんなSPYDを長期保有するメリットやデメリットについて解説します。
メリット
配当利回りが高い
SPYDを保有するメリットは配当利回りが高い、これにつきます。
過去の傾向からは同じく米国高配当株ETFであるVYMやHDVの配当利回りを大きく上回ります。
VYM:3%程度
HDV:3.5%程度
SPYD:4.5%程度
注:2024年6月時点
上記の利回りで計算すれば、100万円の投資で4.5万円程度もの配当を受け取れます。
銘柄は自動入れ替え
SPYDに限ったことではありませんが、ETF(上場投資信託)であるため銘柄の入れ替えを自動対応してくれます。
しかもSPYDを購入するだけで、80銘柄へ分散投資ができます。
これが個別株へ投資するのであれば大変です。80銘柄もの個別株を保有して、銘柄の入れ替えを自分で対応しなければいけないからです。
デメリット
逆にSPYDを長期保有することにはデメリットも多くあります。
配当が安定しない
SPYDは配当が安定しないというデメリットがあります。
SPYDの年間分配金の推移を下図に示します。
若干の増配傾向はあるものの、増配と減配を繰り返している状況です。
一方で、同じ米国高配当ETFのVYMは13年連続で増配しています。
長期保有するだけでどんどん分配金を増やせるVYMとは違って、SPYDは配当が安定しないのです。
値上り益が狙えない
SPYDへの投資では大きな株価上昇が狙えません。
下図に米国高配当ETF3銘柄の株価推移を示します。
青のSPYDは2015年の設定から約40%の株価上昇と3銘柄の中で最も低くなっています。
同時期にHDVは約50%、VYMに至っては80%以上もの株価上昇がありました。
SPYDを長期保有しても株価上昇は限定的だと考えた方がよいのです。
買い時が難しい
株価の上昇も増配も少ないということは買い時が難しいとも言えます。
VYMであればちょっとくらい株高な時期に購入しても、少し待っていれば購入単価を超える可能性が高いです。
したがって、そこまで購入時期に神経質になる必要はないのです。
一方で、SPYDの場合は暴落時などを狙って購入する必要があります。
株価の高い時期に購入してしまうとその株価を超えるまでに長い年月がかかる可能性があります。
SPYDは買い時が限られていると考えた方がよいでしょう。
景気敏感セクターが多い
SPYDのセクター別の割合を下表に示します。
No. | セクター | 構成比 |
---|---|---|
1 | 不動産 | 27.88% |
2 | 金融 | 19.72% |
3 | 公共事業 | 18.21% |
4 | 生活必需品 | 7.29% |
5 | エネルギー | 5.98% |
6 | ヘルスケア | 5.90% |
7 | 素材 | 5.44% |
8 | 一般消費財 | 4.47% |
9 | 情報サービス | 2.74% |
10 | 情報技術 | 1.27% |
11 | 資本財 | 1.11% |
注:2024年6月末時点
SPYDは不動産や金融などの景気敏感セクターの割合が高いという特徴があります。
つまり、暴落時に大幅に下落する可能性が高いのです。
資産運用では暴落時での取り崩しを極力避けなければいけません。もし取り崩してしまうと資産を大幅に減らしてしまうからです。
このようなことからSPYDは扱いづらい銘柄だと言えるでしょう。
SPYDを長期保有するとどうなる?
このように多くのデメリットを持つSPYDですが、それでもその高い配当利回りは魅力です。
ここではSPYDを長期保有した場合にどの程度の損益があるのか確認していきます。
長期保有するとどれくらい儲かるのか?
SPYDは2015年の途中に上場した銘柄です。
そこで2016年の年始から2023年の年末まで運用した場合の損益を下表に示します。
2016年株価(ドル/株) | 2023年株価(ドル/株) | 損益(%) | 年率上昇(%/年) | |
---|---|---|---|---|
SPYD | 29.12 | 39.19 | 35.04 | 3.83 |
HDV | 72.72 | 101.99 | 40.25 | 4.32 |
VYM | 65.95 | 111.63 | 69.26 | 6.80 |
SPYDの株価上昇はHDVやVYMと比較すると低いものの、年率3.83%/年とそれなりにあります。これに配当の受け取りもあるので、そこまで悪くないように思えます。
しかし、VYMとの差は年率で3%程度もあります。先にご紹介した配当利回りには3%もの差はありませんから、トータルリターンで考えるとSPYDはVYMに劣るのです。
購入単価に対する配当利回りは?
SPYD、VYM、HDVの購入単価に対する配当利回りを見てみましょう。
2016年年始にSPYDを購入すると5.2%程度の配当利回りがありました。
その後、2023年まで保有し続けた場合、購入単価に対する配当利回りは6.3%まで約1%上がっています。
一方で、VYMは2016年で3.3%程度でしたが、2023年には5.3%と2%程度上昇しています。これはVYMの増配率が高いためです。
このペースで差が縮まれば、最初にあった約2%の配当利回りの差は約15年でなくなることになります。
つまり、長期保有するのであれば、SPYDの大きなメリットである配当利回りの優位性はどんどん薄れていくのです。
SPYDの長期保有はあまりおすすめできない
このようなことから長期保有が前提ならSPYDはおすすめできません。
上述の通り、株価上昇が期待できないので資産を増やすステージでの保有に向いていません。
実際に各ETFの5年リターンは以下の通りで、3つの米国高配当ETFの中で最も低くなります。
SPYD:6.14%/年
HDV:6.83%/年
VYM:9.76%/年
注:2024年6月30日時点
また、増配などを加味すると15年程度でVYMの配当利回りはSPYDに追いついてしまいます。
そう考えるとVYMを長期保有して高いリターンを得たほうがよいでしょう。
SPYDの購入は暴落時にバーゲンになっている時に限定する、また3年〜5年と言った比較的短期での保有を前提するなどの戦略が必要になります。
以上、ご参考になれば幸いです。