最近は貯蓄から投資へのスローガンのもと様々な税制優遇口座が用意されています。
例えば、NISAやiDeCoなどの言葉を聞いたことがある方も増えているでしょう。しかし、これから投資をするなら一体何を優先して始めればよいのでしょうか?
普通の方は投資に回せるお金は限られていますから、すべての制度を活用できるほど余裕はないはずです。
そこで本記事では投資をこれから始める方に向けて、どの税制優遇口座を優先して利用していけばよいのか解説していきます。
投資における優先順位とは?
投資における優先順位は目指すものによって違います。
例えば、配当金生活を目指しているのなら、配当金を受け取ることが重要になります。後述する確定拠出年金では配当を受け取れませんから、この制度を活用する優先順位は低くなります。
老後資金の確保を目指しているのか、あるいは早期退職を目指しているのか、こういった目的によって優先すべき制度は変わってくるのです。
税制優遇口座の種類
まずは一体どのような税制優遇口座があるのか解説していきます。
大きく分けると「確定拠出年金」と「NISA(少額投資非課税制度)」があります。
① 確定拠出年金
確定拠出年金は簡単に言えば自分年金です。
この制度を活用するメリットは拠出時に全額所得控除の対象になることです。投資にお金を回すことで所得税が軽減するのです。
それだけではありません。運用で生じた利益も非課税になり、受け取る際も公的年金等控除や退職所得控除枠を活用できます。
一方で、年金という立ち位置ですから、原則60歳以降まで引き落とせないというデメリットがあります。
メリット:拠出時に全額所得控除の対象、運用益が非課税
デメリット:原則60歳まで引き落とせない
さらに確定拠出年金は「企業型確定拠出年金」と「iDeCo(個人型確定拠出年金)」に分けることができます。
企業型確定拠出年金はお勤めの企業が導入していなければ加入することはできません。
また、企業が契約した運営管理機関の運用商品しか購入できないため、場合にはよっては手数料が高いダメ商品が含まれている可能性があります。
一方で、iDeCoは自分で運営管理機関を選択できるので、自分が購入したい商品をある程度選択できます。
しかし、口座維持のために手数料が発生するのがデメリットです。
NISA(少額投資非課税制度)
もう1つの税制優遇口座がNISA(少額投資非課税制度)です。こちらを活用すると、一定金額の範囲内においては非課税で取引ができます。
2024年からNISA制度が新しく生まれ変わりますが、下表の通り「成長投資枠」と「つみたて投資枠」の2つがあります。
成長投資枠 | つみたて投資枠 | |
---|---|---|
年間投資枠 | 360万円/年 | |
240万円/年 | 120万円/年 | |
非課税期間 | 無期限 | |
最大利用可能額 | 1,800万円(成長投資枠は1,200万円まで) | |
開始時期 | 2024年〜(恒久化) | |
対象商品 | 株式・ETF・投資信託など | 一部の投資信託・ETF |
「成長投資枠」では個別株を含めて様々な商品が購入できる見込みです。「つみたて投資枠」の方は金融庁選定の投資信託(一部ETFも可)しか購入できません。
一方で、確定拠出年金とは違って拠出時の税制メリットはありません。
また、60歳を待たずにいつでも投資商品を売却することができるという特徴があります。
税制優遇口座のまとめ
上記でご紹介した税制優遇口座の特徴をまとめると以下の通りです。
iDeCo:老後資金用。自分で運用会社を選べるものの口座維持に手数料がかかる。
企業型確定拠出年金:老後資金用。会社が導入していないと加入できない。口座維持手数料は無料。
NISA(つみたて投資枠):金融庁指定の商品のみ。配当が出るものは投資不可。
NISA(成長投資枠):個別株なども含めて比較的自由に取引が可能。
上記から言えることは、配当金を受け取りたいならNISA(成長投資枠)を活用するしかないという点です。
また、確定拠出年金は税制メリットが非常に大きいものの、老後までの資金拘束があります。
つまり、早期リタイアをしてもこのお金をすぐに使うことはできません。
「老後資金の確保」を目的に投資を始める場合
「老後資金の確保」を目的に投資を始める方が優先すべき投資口座は以下の通りです。
1. 企業型確定拠出年金
2. iDeCo
3. NISA(つみたて投資枠&成長投資枠)
1. 企業型確定拠出年金
まず真っ先に考えたいのは企業型確定拠出年金です。
先にご紹介したとおり、投資による利益が非課税になるだけでなく、掛金を控除できますから所得税や住民税の節税効果が見込めます。
老後まで資金を引き落とせないデメリットはある意味でメリットにもなりえます。
お金をすぐに使ってしまう方は強制的に貯蓄ができるので、老後資金の確保と割り切って活用したいところです。
ただし、一点注意したいのは企業型確定拠出年金のラインナップは会社によって違うことです。
みなさんがお勤めの会社に依存しますから、もし優良な商品がないのであれば、次にご紹介するiDeCoを優先するのも一つの手です。
2. iDeCo (個人型確定拠出年金)
もしお勤めの会社が確定拠出年金を導入されていないのなら、次に活用を検討したいのがiDeCoです。
iDeCoなら自分で金融機関を選ぶことができますので、自分が購入したいと思う商品を取り扱っている金融機関を選択しましょう。
口座の維持に若干の手数料がかかりますが、投資額が増えるにつれて手数料のインパクトはどんどん小さくなっていきます。
3. NISA(少額投資非課税制度)
次に検討したいのがNISAです。
確定拠出年金に数万円投資し、まだ投資資金に余裕があればNISAの非課税枠を埋めていきましょう。
ただし、老後資金の確保だけが目的であれば確定拠出年金を目一杯使うだけでも十分です。
「FIREやセミリタイア」を目的に投資を始める場合
FIRE(経済的自立と早期退職)やセミリタイアを目指しているのであれば、以下の順番で投資されるのがよいでしょう。
1. NISA口座(成長投資枠とつみたて投資枠)
2. 確定拠出年金(個人/企業)
3. 特定口座
1. NISA口座(成長投資枠/つみたて投資枠)
老後資金の準備とは違って、まずはNISA口座を活用するのがおすすめです。
確定拠出年金のデメリットの1つが60歳までお金を引き落とせないことです。
FIREやセミリタイアは定年よりも前にリタイアして、貯めたお金を使いながら生活することになります。
したがって、確定拠出年金を活用したせいでリタイア後すぐに使えるお金の準備に時間がかかり、セミリタイアが遅れたという事態になりかねないのです。
いつでも解約できるNISAを確定拠出年金よりも優先して使うのがよいでしょう。
2. 確定拠出年金(企業型/個人型)
一方で、先にご紹介した通り確定拠出年金には大きな節税メリットがあることも事実です。
そこでもしNISAの非課税枠(1,800万円)を早々に埋められたのであれば、確定拠出年金を少額活用しておくのもお勧めです。
早期退職やセミリタイアして会社を辞めると、厚生年金から外れるため将来もらえる年金は普通の方と比較して少なくなります。
公的年金に加えて「自分年金」も少し準備しておくとリタイア生活がうまく行かなかった場合のリスクヘッジになります。
3. 特定口座
セミリタイアやFIREを目指すのであれば、上記2つの税制優遇制度を活用するだけでは足りないかもしれません。
NISAも満額投資し、確定拠出年金も月数万円投資ができるのなら、残りは税制優遇のない普通の口座(特定口座)を活用してどんどん投資していきましょう。
私はセミリタイアを目指す最低ラインとして、月10万円以上の投資が必須と考えています。
10年、20年と月10万円以上の投資を継続していけば、きっとNISAや確定拠出年金の枠では足りなくなるはずです。
「配当金生活」を目的に投資を始める場合
次に配当金生活を目指して投資を始める方の優先順位をご紹介します。
1. NISA(成長投資枠)
2. 特定口座
1. NISA(成長投資枠)
株からの配当金で生活する配当金生活にこだわるのであれば、配当金を受け取ることを最優先にする必要があります。
そうなるとNISAの「成長投資枠」を活用するしかありません。なぜなら、他の税制優遇制度では配当金を基本受け取れないからです。
NISAの成長投資枠なら個別株やETFなどを購入して配当金を受け取ることができるのです。
一方で、NISAの「つみたて投資枠」は基本的に投資信託しか購入できず、配当金の受け取りはできません。
そのため、まずは成長投資枠の1,200万円の非課税枠を埋めることを第一に考えるべきです。
2. 特定口座
残りの優遇制度であるiDeCoやNISAのつみたて投資枠は配当を出さない投資信託を購入するのが一般的です。
配当金生活を目指すのであれば、これらの税制優遇口座を使っても配当金の増加に寄与しません。
したがって、NISAの成長投資枠を埋めたのなら、その後はひたすら特定口座で株式を買い集めることになります。
まずは税制優遇口座を活用すべき!
上記では投資の目的別に優先して利用するべき口座についてご紹介してきました。しかし、どのような立場の方でも税制優遇口座を目一杯活用することで問題ないと考えます。
配当金に強いこだわりがあるのなら別ですが、やはり税制優遇口座を使わないのはもったいなさすぎます。
配当金生活を目指している方もNISAのつみたて投資枠を埋めて、4%ルールで取り崩しながら生活する方法もあります。
配当金生活を目指しているから配当金をもらえないものは一切ダメとか、FIREを目指しているから確定拠出年金は無駄とかそういう偏った考え方ではいけません。
まずは使える制度をきっちり使って、それでも余裕があるのであれば特定口座で投資をしていきましょう。
まとめ
本記事では投資を始める目的別に投資の優先順位をご紹介しました。
基本的には老後資金を効率的に作れる確定拠出年金を活用したいところです。その後、まだ余裕があるのであれば、できる限りNISAの非課税枠を埋めていきましょう。
セミリタイアや配当金生活を目指すのであれば、NISAの成長投資枠で配当を受け取れるものを購入する、特定口座を活用して更に投資するなど投資を広げていくのがよいでしょう。
以上、ご参考になれば幸いです。