セミリタイアやFIREを目指しているけどNISA(少額投資非課税制度)とiDeCo(個人型確定拠出年金)は両方ともやった方がよいのでしょうか?
これはFIRE(経済的自立と早期退職)を目指している多くの方が抱えている問題です。
NISAやiDeCoは国が用意した税制優遇制度で、うまく活用すれば効率的に資産形成することができます。
一方で、特にiDeCoは老後までの資金拘束がある点や一度始めると基本的に辞められないというデメリットがあります。
そこで、本記事ではFIREやセミリタイアを目指している方がNISAやiDeCoを併用する戦略について、著者の考えを解説していきます。
NISAとiDeCoは併用すべき?
結論としてセミリタイアを目指していても、NISAとiDeCoの両方を併用してもよいと考えます。
ただし、特にiDeCoについては戦略的に活用していく必要があります。
また、これらの制度は時代と共に変わるものですから、適宜方針の見直しが必要になるでしょう。
税制優遇制度であるNISAとiDeCo
まずは各制度の基本について解説します。
NISAとは?
NISAは投資の収益に対する税金が免除される税制優遇制度です。
金融所得に対する税金には通常所得税と住民税の合計で約20%の税金がかかります。
しかし、NISA口座内で保有する金融商品においては、この約20%の税金が免除されます。
2024年に始まった新NISAでは投資期間が恒久化され、非課税投資枠も1,800万円とかなり大きい金額になりました。
将来的には現在20%程度の税金が30%になるなど、金融所得に対する増税が考えられます。
したがって、NISAを活用しない手はありません。
まずはNISAの非課税投資枠である1,800万円を埋めることを第一に考えるべきでしょう。
iDeCoとは?
iDeCo(イデコ)は個人型確定拠出年金を指します。
確定拠出年金には企業型もありますが、お勤めの企業が制度を導入していなければ加入できないため、ここではiDeCoのみで考えます。
こちらは老後資金の確保(公的年金への上乗せ)のために設計された制度です。
そのため、基本的には60歳以降まで使うことができません。
厚生年金に加入していない自営業の方などは将来受け取る年金が少ないため、iDeCoの活用は必須と言えます。
iDeCoはNISAと同様に投資の収益に対する税金が免除されます。また、それに加えて拠出時にも所得控除を受けることができるため、住民税や所得税の節税になります。
つまり、拠出時にも運用時にもメリットのある制度です。
一方で、受け取り時には雑所得か退職所得として課税対象になります。
したがって、出口での課税を考えると戦略的にiDeCoを利用する必要があります。
セミリタイア/FIREすることとは?
次にセミリタイアを目指すこと、そして早期退職することは一体どういうことなのか整理していきます。
資産運用額が大きい
セミリタイアできる人は若くして資産を作った人です。
多くの方はNISAの上限額である1,800万円をはるかに超えるお金を投資に回して運用しています。
つまり、NISAの非課税投資枠を全額埋めるだけの資産を有しており、なおかつ課税口座でもそれなりの資産を運用しています。
退職金は期待できない
会社を早く辞めるので退職金が期待できません。
退職金制度は基本的に勤続年数が長いほど有利に設計されています。
また、勤務期間が長いほど指数関数的に退職金が増えるため、勤務期間が短いと退職金は微々たるものです。
加えて、自主退職の場合には一定の割合で減額されることが多いです。
厚生年金も期待できない
退職金に加えて厚生年金も期待できません。
会社を途中で辞めるわけですから、厚生年金の加入期間が短く、定年まで勤めた方と比較して年金額は少なくなります。
もちろん、自営業の方と比較すれば会社員時代がある分多くもらえます。
しかし、支給される年金だけで生活することは困難で、毎月それなりの金額が不足するでしょう。
したがって、年金受給開始時点である程度の老後資金を確保しておく必要があります。
若くしてお金を使っていくステージ
普通は老後までお金を少しずつ貯めて、定年後に蓄えたお金を使っていくのが一般的です。
しかし、セミリタイアする方は若い年代、もしかしたら30代や40代で貯めたお金を使っていくステージに入ります。
したがって、iDeCoのデメリットである資金拘束は考えものです。
運用に失敗さえしなければ、iDeCoの受給開始時である老後に十分すぎる資産を保有している可能性が高いです。
そうなるとiDeCoのお金はほぼ使わない可能性すらあります。
投資の世界で有名なDie With Zeroという本でも老後にお金を残しすぎることの問題について述べられています。
DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール
したがって、iDeCoは不要と考える方も多くいらっしゃいます。
それでもiDeCoをやった方がよい理由
それでも著者はiDeCoをやっておいて損はないと考えます。
以下ではその理由を解説していきます。
iDeCoは自由財産
確かにセミリタイアする方にとって老後まで資金拘束されることは痛いです。
しかし、iDeCoは法律的に違う意味を持つお金です。自由財産と呼ばれ、仮に自己破産しても守られるお金です。
自己破産とまではいかなくても、セミリタイア生活での資金管理がうまくいかない可能性は十分あります。
年金の少ないセミリタイア民にとっては、ほぼ貯金なしで老後に突入するのは避けるべきです。
iDeCoを除く資産が枯渇しそうになれば、節約することや再度労働することを早めに検討するのがよいでしょう。
その意味でも手がつけられない資産として一定額をiDeCoとして保有しておくことはおすすめです。
少額なら課税されない
確かにiDeCoは受け取り時に課税される可能性があります。
一方で、かなり優遇されているのも事実です。
iDeCoを一時金として受け取る場合は退職所得として扱われますが、退職所得控除は以下の式で計算されます。
20年以下:40万円 x 年数
20年を超える部分:70万円 x 年数
例えば、30年の運用期間があれば、現行制度では1,500万円の控除枠があります。
現在この控除枠の縮小が議論されており、20年を超える部分も40万円になるのではないかと言われています。
しかし、仮にそうなっても1,200万円の控除枠があることになります。
この控除枠を溢れた分は1/2(半分)のみが課税対象ですし、200万円くらいまでは所得税の税率は5%です。
つまり、受け取り時の金額が1,000万円~2,000万円程度であれば、そこまで出口での課税を恐れる必要はないのです。
増税へのリスクヘッジになる
将来的に金融所得に対する増税が予想されます。
特定口座で保有している金融商品の税率は、現行の約20%から25%や30%に増税されていくでしょう。
さらには最近話題になったのが、金融所得に対して社会保険料をかけるというニュースです。
しかし、iDeCoには社会保険料がかかることは考えにくいです。なぜなら、iDeCoは明確に老後資金の位置付けだからです。
老後期間が伸びている
平均寿命は伸びており、老後期間はどんどん長くなっています。
30代や40代で仕事を辞めた場合は老後までに数十年、そこから更に数十年の老後生活が残されています。
そこでiDeCoのお金は老後資金と割り切って考えてもよいでしょう。
特定口座やNISAで運用するお金は老後までの数十年を生きる資産と決めてどんどんお金を使う方が、お金を無駄にする可能性が低いはずです。
iDeCoは2,000万円くらいまでがベター
ここまでiDeCoを活用した方がよい理由を説明してきました。
しかし、iDeCoを活用する上で考えるべきこともいくつかあります。
① 退職までにそれなりの金額を運用する
iDeCoのデメリットの1つに拠出時に最低でも171円/月の手数料が発生する点があります。
また、追加拠出がない場合でも口座維持費として最低66円/月の手数料が発生します。
これは運用額に関わらず一律です。
極端な例ですが、10万円しか運用していなければ、拠出しない場合(66円/月)は手数料が運用額に対して2%程度に達します。
10万円運用→約2%
100万円運用→約0.2%
定期預金の利子を考えれば年2%の手数料は大きいことを理解できるでしょう。年2%のリターン以上が出せなければ資産は減っていきます。
一方で、100万円を運用していれば0.2%とかなり低くなります。
セミリタイアしたら追加の拠出は難しくなりますから、運用額が少ないと手数料負けする可能性があります。
したがって、会社を辞めるまでに最低でも数百万円程度のiDeCoを作っておきたいところです。
② iDeCoにお金を入れすぎない
一方で、iDeCoに対してお金を入れすぎない方がよいでしょう。
理由は2つあります。
1つ目はセミリタイアする方には資金拘束のデメリットが大きすぎるからです。
お金を使っていくステージにいる方にとって、大金を老後まで資金拘束させることは得策ではありません。
2つ目は税金です。iDeCoは受け取り時に課税されてしまうからです。
上述の通り、1,000万円程度であれば退職所得控除の枠内に収まる可能性が高いです。
しかし、控除枠を超えると受け取る額が増えるにつれてどんどん税率が上がっていきます。
こうなると税制優遇のメリットを超えるような税率にもなりかねません。
長期間の運用ではインフレがある点も考える必要があります。大きく課税されてしまうと、拠出時や運用時の税制メリットを加味しても本当にお得か微妙になっていきます。
最大2,000万円程度を目指す
そこでおすすめなのはiDeCoは最大2,000万円程度を目指すことです。
2019年に老後2,000万円問題が話題になりました。年金だけでは足りずに毎月約5.5万円が必要なケースでは、30年で2,000万円程度が必要だと言うものです。
したがって、これくらいのお金を老後に残しておくことは1つの目安になるでしょう。
リタイア生活で仮に運用に失敗したとしても、年金の受け取り開始時点でiDeCoを中心に2,000万円があればなんとか老後を生き抜くことができます。
リタイア時にどの程度iDeCoを保有すればよい?
下表は退職時の運用額と追加拠出なしで4%で運用した場合の将来的な資産額をまとめたものです。
リタイア時の運用額 | 10年 | 15年 | 20年 | 25年 |
---|---|---|---|---|
300万円 | 447万 | 546万 | 667万 | 814万 |
400万円 | 596万 | 728万 | 889万 | 1,086万 |
500万円 | 745万 | 910万 | 1,111万 | 1,357万 |
600万円 | 894万 | 1,092万 | 1,334万 | 1,628万 |
700万円 | 1,043万 | 1,274万 | 1,556万 | 1,900万 |
800万円 | 1,193万 | 1,456万 | 1,779万 | 2,171万 |
注:iDeCoの口座維持にかかる手数料は無視して計算。
入社してiDeCoを始めて月2万円の拠出を15年続ければ、4%のリターンでも約500万円に到達します。その時点で老後まで25年近くあります。
25年後には1,400万円ほどまで達する計算ですから、iDeCoの拠出額を多くする必要はありません。
上記の表を参考に、老後資金を作りすぎていないか確認し、掛け金を調整していくのがよいでしょう。
iDeCoとNISAをうまく使いこなせ!
大事なのは各制度のいいとこ取りをすることです。
NISA枠を上回る投資資金を準備できているのなら、一部をiDeCoへ割り振るのがおすすめです。
そしてiDeCoの運用額を2,000万円程度に抑えておけば、最低限の税金の支払いで受け取ることができるでしょう。
確かに税制は時代と共に変わります。
しかし、それはある意味国からのメッセージでもあります。1,800万円のNISAの非課税投資枠、2,000万円程度までの退職所得の控除枠、これらを使わない手はありません。
投資では株式だけでなくゴールドや債券などアセットアロケーションを考えることが重要です。
その一環として、iDeCoへのお金の分散も考えていきたいところです。
セミリタイアを目指していても少額をiDeCoで運用しておくことは悪くないでしょう。
以上、ご参考になれば幸いです。