VIG(バンガード・米国増配株式ETF)という銘柄を聞いたことがありませんか?
VIGは米国の連続増配している企業へ投資するETF(上場投資信託)です。世界経済の中心である米国で、しかも連続増配(配当が毎年増えている)の企業ばかりを集めた銘柄ですから、安定的な運用が期待できます。
したがって、このVIGへの投資で配当金生活を目指すことを検討されている方もいらっしゃるかもしれません。
そこで本記事ではVIGで配当金生活を目指せるかどうかという視点で解説していきます。
VIGの基本情報
VIGは簡単に言えば米国の10年連続増配の企業を集めた銘柄です。
VIGの基本情報を以下にまとめます。
銘柄名 | バンガード・米国増配株式ETF |
ティッカーシンボル | VIG |
指数 | S&P U.S. Dividend Growers Index |
銘柄数 | 314 |
株価 | 162.43ドル/株 |
配当利回り | 1.82% |
経費率 | 0.06% |
運用額 | $69.4 Billion |
出典:バンガードHPを基に作成(2023年6月30日時点)
VIGの投資銘柄数は300以上とそれなりの数です。逆に言えば、米国ではこれだけの企業が10年連続で増配していることになります。
一方で、配当利回りは2%弱とそれほど高くはありません。たとえ配当利回りが低くても、連続増配されている企業であればVIGの投資対象に入るためです。
また、VIGの運用額は10兆円弱と世界でもトップクラスで、十分な資産を集めていると言えるでしょう。
銘柄一覧
そんなVIGが投資する銘柄のトップ10を下表にまとめます。
連続増配の企業を集めているだけあって、マイクロソフトやアップル、クレジットカードのビザやマスターカードなど世界的なシェアを誇る企業が上位に名を連ねています。
銘柄 | 割合 | |
---|---|---|
1 | Microsoft Corp. | 4.66% |
2 | Apple Inc. | 4.70% |
3 | UnitedHealth Group Inc. | 3.07% |
4 | Exxon Mobil Corp. | 2.98% |
5 | Johnson & Johnson | 2.95% |
6 | JPMorgan Chase & Co. | 2.92% |
7 | Visa Inc. | 2.53% |
8 | Procter & Gamble Co. | 2.46% |
9 | Broadcom Inc. | 2.41% |
10 | Mastercard Inc. | 2.27% |
注:2023年6月末現在の情報を基に作成
VIGの特徴
配当利回りは高くない
上述の通り、VIGの配当利回りは約2%と高くありません。
2%の配当利回りは、例えば100万円を投資すれば年2万円を分配金として受け取れることを意味します。
米国の高配当株へ投資する銘柄として人気のVYM、SPYD、HDVの配当利回りはVIGよりも高いことがほとんどです。
VYM:約3%
HDV:約4%
SPYD:約5%
増配と聞くとたくさんの配当金がもらえるイメージがあるかもしれませんが、実際はVIGの利回りはそこまで高くありません。
増配率が高い
一方で、VIGの増配率の高さは目を見張るものがあります。
下表はVIGの過去の分配金と増配率をまとめた表です。
2006年に運用を開始したVIGですが、減配したのは2009年と2013年のたった2回しかありません。この間にリーマンショックやコロナショックなどの経済危機を経験しているにもかかわらずです。
しかも、減配した年も前年と比較して5%未満の微減でした。
一方で、VIGの2007年から2022年の増配率は約8.5%/年にも及びます。
8.5%/年の増配率は、たった9年後に分配金が現在の2倍以上になることを意味します。つまり、VIGを長期保有すればどんどん配当を増やすことができます。
株価が安定している
VIGは株価の上昇が狙え、株価が安定していることも特徴です。
以下はVIGの株価推移ですが、きれいに右肩上がりで株価が上昇していることが分かります。
出典:Yahoo finance
VIGは2007年1月から2022年12月末までの間に約3倍にも株価が上昇しています。
年率の株価上昇に換算すれば約7%/年ですから、配当だけでなく株価上昇も十分狙える銘柄です。
2007年年始時点:53.96ドル/株
2022年年末時点:151.85ドル/株
株価上昇:7.14%/年
VIGで配当金生活を目指すのに必要な投資額
それではそんなVIGで配当金生活を送るにはどの程度の投資資金が必要になるのでしょうか?
一括で投資する場合
VIGへ投資して配当金生活を送るには1億円近い大金が必要になります。
総務省統計局が実施した家計調査年報(2021年)によれば、単身世帯の生活費は約16万円/月です。
単身世帯:155,046円/月
この結果から、年間あたりでは約186万円の生活費が必要だということになります。
この生活費を賄うために必要な株数と資金を整理すると以下の通りです。
分配金:2.9725ドル/年(2022年)
必要な株数:4,814株
株価:162.43ドル/株
必要な資金:162.43ドル/株✖️4,814株=781,938ドル
1ドル130円の計算でなんと約1億円もの投資資金が必要になります。
これは単身世帯の生活費をカバーするために必要な投資資金にすぎません。しかも、税金は加味していませんから、実際にはこれ以上の投資資金が必要になるでしょう。
コツコツ積み立てる場合
このような投資資金をいきなり準備することは現実的ではありません。
多くの方は毎月の給料の一部を投資に回し、コツコツと積立投資することになるはずです。
VIGの設定来からのトータルリターンは2023年5月時点で9%/年以上です。少し控えめに今後7%/年のリターンが期待できると仮定します。
この場合に、必要な毎月の投資資金は以下の通りです。
10年:578,676円/月
20年:192,273円/月
30年:82,101円/月
40年:38,159円/月
40年かければ現実的な投資額になりますが、配当金生活ができる頃には定年を迎えてしまいます。
40代〜50代でのリタイアを想定するなら月10万円以上を確保が必須です。
しかも、想定リターンは米国株のリターンが良かった2010年代を反映したものです。今後もVIGが高いリターンを出し続けるとは限らないのです。
VIGで配当金生活を目指す魅力
そんなVIGで配当金生活を目指すメリットはどこにあるのでしょうか?
ここでは米国高配当株ETFやVTIやVOOなどの全米株へ投資するETFと比較していきます。
高配当株ETFとの比較
高配当株ETFは利回りの高い銘柄を集めた商品で、米国高配当株ETFとして有名なものにVYM、HDV、SPYDなどがあります。
この中でも12年連続増配しているVYMは配当金生活を目指す上で有力な投資候補になるでしょう。
以下にVYMとVIGの配当利回りと増配率は以下の通りです。
VYM | VIG | |
配当利回り | 3.20% | 1.82% |
増配率 | 6.0%/年 | 8.5%/年 |
株価上昇 | 5.0%/年 | 7.1%/年 |
注:増配率及び株価上昇は2007年から2022年のデータを基に計算。配当利回りはバンガードHPの情報(2023年6月末時点)
VYMはVIGよりも配当利回りが1%程度高いです。たった1%と思うかもしれませんが、この1%は非常に大きく、VYMなら必要な投資資金を7,000万円程度まで抑えることができます。
一方で、注目したいのがVIGの増配率です。
さすがは10年以上の連続増配銘柄を集めているだけあって、VYMよりも高い増配率があります。
つまり、VIGの方が時間が経つにつれてどんどん配当金を増やすことができるのです。
以下はVYMとVIGを1万ドル購入した場合の分配金が、投資後にどのように増配されていくかを示した図です。
注:2023年5月26日の株価と2022年の年間分配金を基に計算
当然ながら利回りが高いVYMの方が最初はたくさんの分配金を受け取れます。しかし、増配率が高いVIGは約20年後に受け取る分配金の額が逆転する計算です。
一旦配当金生活に突入できるだけの資金を準備できれば、VIGの方がより安定的に配当金を増やせる可能性が高いのです。
VTIとの比較
逆にVTIのような米国株全体へ投資するインデックスファンドとの比較ではどうでしょうか?
VTIの配当利回りはVIGよりもさらに低くなります。
VTI:約1.5%
VIG:約2%
したがって、配当金生活を送るための投資資金も大きく膨れ上がり、1.6億円程度の投資資金が必要になります。
VTIのような銘柄へ投資して配当金生活を目指すのは現実的ではありません。どうしても株の売却が必要になってきます。
VIGで配当金生活を目指すべきか?
結論として、VIGで配当金生活を目指すことは1つの選択肢になり得ます。
しかし、VIGのみでは相当な投資資金が必要になりますので、高配当株ETFと組み合わせるのがよいでしょう。
VIGの安定感は抜群
先にご紹介した通り、VIGの増配や株価の安定性は素晴らしいものがあります。
VIGへ投資して配当金生活を達成できる状態を作れれば、かなり安定した配当金生活を送れるはずです。株価も上昇していきいますし、配当もかなり高い確率で毎年増配されていくからです。
この点から考えて、VIGを中心に据えたポートフォリオを構築するのも選択肢に入ります。しかし、問題は配当利回りが低く配当金生活ができる状態を作るまでの時間がかかりすぎる点です。
潤沢な投資資金を確保できるのであれば、VIGで配当金生活を目指してもよいかもしれません。
しかし、そうでなければ、高配当株ETFなどを組み合わせなければ配当金生活にたどり着く前に定年を迎えてしまうでしょう。
1つの銘柄を選ぶ必要はない
VIGだけで配当金生活を目指さなければいけないというルールはありません。
VYMなどの高配当株ETFを基本に投資を行い、余裕が出てきたらVIGをトッピングして安定性を高めることも一案でしょう。
あるいは投資期間を長く確保できる方であれば、最初にVIGをコツコツ買い集めておけば、配当金生活をする頃には配当金を大きく増やすことができる可能性があります。
このようにご自身の状況に応じて米国高配当株ETFとVIGの割合を調整しながら配当金生活を目指してもよいのです。
以上、ご参考になれば幸いです。
一般的な収入の方であれば、やはりある程度の配当利回りを追求してVYMのような高配当株ETFで配当金を目指すのがよいでしょう。